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祝辞の比喩は滑る。──3つのズレで原因を切り分ける

time 2025/12/30

「比喩を使ったら、なんか滑った気がする」

祝辞を終えた後、そんなモヤモヤを抱えたことはありませんか。あるいは、他の人の祝辞を聞いていて「あ、今の比喩、ちょっと……」と感じたことがあるかもしれません。

この連載では、「比喩が滑る」とはどういう現象なのかを言語化し、事前に防ぐ方法を全6回でお伝えします。第1回は「滑る」の正体を定義するところから始めます。

そもそも、なぜ祝辞に比喩を入れるのか

比喩を入れる目的は、大きく分けて4つあります。

印象化──抽象的なメッセージを、聞き手の記憶に残す。「努力は大切です」だけでは印象に残りにくい。何かに喩えることで記憶のフックを作ります。

抽象の具体化──言葉だけでは像が結べないものを、聞き手の頭に「絵」として浮かばせる。これが比喩の最も基本的な機能です。

情緒づけ──論理だけでは届かない感情的な重みを与える。式典という場にふさわしい「厚み」を持たせます。

記憶化──式典が終わった後も残るフレーズを作る。「あのとき会長が言っていた○○」と思い出してもらえれば成功です。

しかし、これらの役割を果たせない比喩があります。それが「滑る」比喩です。

「滑る」の内訳を分類する

「滑った」と感じるとき、その内実は一様ではありません。分類すると、概ね5種類になります。

滑りのタイプ どういう状態か
伝わらない 聞き手が比喩の意味を理解できない 「○○のようなものです」と言っても○○を知らない
誤解される 意図と違う意味で受け取られる 「船出」のつもりが「漂流」を連想される
場違いに見える 意味は伝わるが、式典の空気に合わない 笑いを取りにいって会場が凍る
自己満に見える 話し手だけが気持ちよくなっている 凝った言い回しに酔っているように見える
余計な連想が走る 意図しない方向に思考が飛ぶ 「戦い」が受験失敗した生徒を傷つける

自分の比喩が「どの滑りに当たりそうか」を判定できれば、対策が立てられます。まずはこの5分類を頭に入れておいてください。

原因は「3つのズレ」で説明できる

上記5種類の滑りは、突き詰めると3つの原因に集約されます。この連載の核心部分です。

共有経験のズレ──話し手と聞き手が同じ経験を持っていない。知らない映画、触れたことのないスポーツ、世代特有の文化。これらを前提にした比喩は、一部の聞き手だけに届きます。

抽象度のズレ──比喩が抽象的すぎて像が結べない。あるいは具体的すぎて意味が狭くなる。「人生は旅だ」は抽象的すぎて何も言っていないに等しいですし、「人生は新幹線のぞみ号の自由席だ」は具体的すぎて解釈の余地がありません。

説明コストのズレ──比喩の意味を理解するのに時間がかかりすぎる。祝辞は短いです。前提を説明している暇はありません。

この3つを「ズレの3要素」として、第2回以降で各回深掘りしていきます。

祝辞には祝辞特有の難しさがある

なぜ祝辞の比喩は難しいのでしょうか。通常のスピーチや文章とは異なる制約があるからです。

聞き手が多層である──児童生徒、保護者、教職員、来賓。それぞれ年齢も立場も経験も違います。全員に届く比喩を作るのは至難の業です。

時間が短い──多くの場合3〜5分。比喩を丁寧に解説する余裕はありません。

やり直せない──文章なら読み返せます。祝辞は一発勝負。聞き手が一瞬でも迷子になったら、そこで終わりです。

儀礼性が強い──式典には格式があります。崩しすぎると場にそぐわなくなります。

これらの制約を踏まえた上で、比喩を設計する必要があるのです。

比喩を入れる前の自己診断

比喩を入れる前に、以下の問いで自己診断してみてください。

  • その比喩は聞き手に何を得させるのか?
  • 誰が置いていかれるのか?
  • 説明なしで届くか?
  • 余計な連想を呼ばないか?

この4つの問いを通過しない比喩は、入れない方がマシです。比喩は「あった方がいい」のではなく、「機能するなら入れる」ものだと考えてください。

 
 

第2回では「共有経験のズレ」を掘り下げます。比喩が「内輪ネタ」に見えてしまう構造と、その回避法を扱います。

第2回「共有経験がズレると比喩は「内輪ネタ」に見える」へ

   

この記事の著者

ニーバーオフィス

2006年以来、長きにわたり祝辞・挨拶原稿の代筆を行っている会社の代表者です。このサイトではPTA会長の祝辞・挨拶について、多くのPTA会長のご助力をしてきた経験からアドバイスをしています。