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抽象度がズレると比喩は「ふわふわ」か「ピンと来ない」になる

time 2025/12/30

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「人生は旅です」

この比喩、聞いたことがありますよね。でも、これを聞いて何か具体的なイメージが浮かびますか? たぶん、浮かばないと思います。

第3回では、比喩が滑る原因の2つ目「抽象度のズレ」を扱います。比喩の「上手い・下手」は、実は抽象度の操作で決まります。

抽象度ズレには2つの方向がある

抽象度のズレには、2つの方向があります。

抽象すぎて像が結べない──「人生は旅です」「未来は可能性に満ちています」。何も言っていないに等しいです。聞き手の頭に何の絵も浮かびません。これが「ふわふわ」と感じる正体です。

具体すぎて狭く、意味が固定される──「卒業は東海道新幹線で東京から名古屋に着いた瞬間です」。具体的すぎて「それ、自分には当てはまらないな」と思われます。応用が利きません。これが「ピンと来ない」の正体です。

どちらも、比喩として機能していない状態です。

比喩は「対応づけ」の設計で決まる

比喩とは、AをBに喩えることです。このとき「Aの何とBの何が対応しているのか」が明確でないと、聞き手は迷子になります。

たとえば「人生は山登りだ」と言ったとき、何を対応させているのでしょうか。

  • 頂上=目標?
  • 道中=努力?
  • 下山=老後?

対応点が曖昧だと、聞き手は好き勝手に解釈します。話し手の意図とズレます。

逆に、対応点が多すぎても問題です。「頂上は目標で、道中は努力で、休憩所は友人で、天候は運で、装備は学力で……」と対応させすぎると、聞き手は追いきれません。

対応点は1〜2個に絞るのが原則です。

1段だけ動かすルール

抽象度を操作するときは、一気に飛ばさないでください。1段ずつ動かすのがコツです。

たとえば「成長」という抽象概念を伝えたいとき。いきなり「成長とは蝶の羽化である」と飛ぶのではなく、まず「成長とは昨日できなかったことが今日できるようになること」と1段具体化します。

その上で必要なら「それは自転車に乗れるようになる感覚に近い」とさらに1段下げます。

聞き手が抽象と具体の間を往復できるように、階段を作ってあげてください。エレベーターで一気に飛ばさないことです。

比喩の「距離」を意識する

比喩には「距離」があります。喩えるAと喩えられるBが、どれだけ離れているか。

距離 特徴
近い 理解しやすいが新鮮味がない 「卒業は旅立ちだ」
中くらい バランスが取れている 「卒業は脱皮だ」
遠い 新鮮だが理解にコストがかかる 「卒業は核分裂だ」

 

祝辞では「新しさの利益」が「理解コスト」を上回ることは稀です。斬新な比喩を披露する場ではありません。無難でも伝わる比喩の方が役に立ちます。

比喩の世界観を混ぜない

1つの祝辞の中で複数の比喩を使うことがあります。このとき注意すべきは「比喩の世界観を混ぜない」ことです。

前半で「船出」の比喩を使い、後半で「種まき」の比喩を使うと、聞き手は混乱します。海にいたはずが畑にいる。頭の中の絵がリセットされます。

1つの比喩を伸ばすか、短く切って戻るか。どちらかに決めてください。複数の比喩を並列するのは上級者向けであり、祝辞向きではありません。

抽象度チェック

比喩を入れる前に、以下を確認してください。

  • 対応点は1〜2個に絞れているか?(対応させすぎていないか)
  • 聞き手の頭の中に「像」が出るか?(抽象的すぎて何も浮かばないなら失敗)
  • 像が出た瞬間に主題へ戻れるか?(比喩に引っ張られすぎて本題を忘れないか)

これらを通過しない比喩は、抽象度の調整が必要です。

次回は「説明コストのズレ」を扱います。

第4回「説明コストが高い比喩は「祝辞」では不利」へ

   

この記事の著者

ニーバーオフィス

2006年以来、長きにわたり祝辞・挨拶原稿の代筆を行っている会社の代表者です。このサイトではPTA会長の祝辞・挨拶について、多くのPTA会長のご助力をしてきた経験からアドバイスをしています。