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比喩の「校閲プロセス」──投入していい比喩だけ残す

time 2025/12/30

前回(ズレを増幅する「連想事故」と「価値観地雷」)へ戻る

全6回の連載も、いよいよ最終回です。

これまで「共有経験」「抽象度」「説明コスト」「連想事故」と、比喩が滑る原因を掘り下げてきました。最終回では、理屈で終わらせず、現場で使える「運用」に落とし込みます。

比喩を置く場所で効果が変わる

比喩を入れるなら、どこに置くと効くのでしょうか。

冒頭──掴みとして使います。聞き手の注意を引けます。ただし、冒頭で滑ると、その後の印象が悪くなります。リスクも高い場所です。

主題提示──伝えたいメッセージを印象づけるために使います。最も効果的ですが、最も難易度が高い場所でもあります。

転換──話題が変わるタイミングで使います。場面転換の合図になります。

結び──記憶に残すために使います。最後に印象を残せます。ただし、蛇足になりやすいので注意が必要です。

どこに置くかによって、比喩の役割と求められる精度が変わります。

Go / No-Go 判断フロー

比喩を投入するかどうかを判断するフローを持ちましょう。以下の4つを順番にチェックしてください。

チェック1:共有経験OK?
聴衆の大半が経験を共有しているか。内輪ネタになっていないか。

チェック2:抽象度OK?
像が結べるか。対応点が絞れているか。

チェック3:説明コストOK?
3秒で意味が取れるか。前提説明が不要か。

チェック4:連想事故OK?
意図しない連想を呼ばないか。傷つく人がいないか。

1つでも不安なら「比喩を捨てる」判断も正解です。比喩なしでも祝辞は成立します。無理に入れることで事故るより、入れないで安全に終わる方がいいのです。

比喩の「控え」を用意する

本番で比喩がうまくいかないことがあります。噛んだ、飛んだ、反応が悪かった。そのときに備えて「控え」を用意しておきましょう。

設計原則は1つ。比喩部分をスキップしても、祝辞として成立する構造にしておくこと。

比喩がなくても意味が通じるように、比喩の前後で同じ内容を別の言い方で言っておきます。比喩はあくまで補強材であり、比喩がなくても建物は建つようにしておくのです。

「比喩が決まれば加点、滑っても減点なし」──この状態が理想です。

最終チェック:音・時間・所作とセットで

比喩の校閲は、文字だけで完結しません。

音で確認──声に出して読みます。つっかえる箇所、言いにくい箇所がないか。聞き手にとって聞き取りやすいかを確認します。

時間で確認──比喩を含む部分の所要時間を測ります。長すぎないか。全体のバランスを崩していないかを見ます。

所作で確認──その比喩を言うとき、どんな表情、どんな間で言うか。比喩の効果は話し方にも依存します。

これらを本番に近い環境で確認してください。机上の校閲だけでは不十分です。

まとめ:比喩は「勝負手」ではなく「補強材」

全6回を通じて伝えたかったことは1つです。

比喩は「勝負手」ではありません。祝辞の成否を比喩で決めようとしないでください。比喩は「補強材」であり、事故を起こさない範囲で効果を出すものです。

共有経験を確認し、抽象度を調整し、説明コストを下げ、連想事故を防ぐ。ここまでやっても、比喩が滑るリスクはゼロにはなりません。

だからこそ「比喩を入れない」という判断も、立派な選択肢なのです。比喩なしで心を込めて語る祝辞は、比喩だらけで滑る祝辞より遥かにいい。

この連載が、比喩と適切な距離を取るための参考になれば幸いです。

総合チェックリスト

最後に、比喩を入れる前に確認する項目をまとめます。

【共有経験】

  • 聴衆の大半がその経験を持っているか
  • 知らない人が恥をかく構造になっていないか
  • 当事者にとって痛い可能性はないか

【抽象度】

  • 対応点は1〜2個に絞れているか
  • 聞き手の頭に像が浮かぶか
  • 比喩から本題にすぐ戻れるか

【説明コスト】

  • 3秒以内に意味が取れるか
  • 前提説明なしで成立するか
  • 一文が長すぎないか

【連想事故】

  • 意図しない連想を呼ばないか
  • 特定の属性を材料にしていないか
  • 時事的に敏感でないか

どれか1つでも引っかかったのなら、その比喩は再考または削除を検討してください。

 
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この記事の著者

ニーバーオフィス

2006年以来、長きにわたり祝辞・挨拶原稿の代筆を行っている会社の代表者です。このサイトではPTA会長の祝辞・挨拶について、多くのPTA会長のご助力をしてきた経験からアドバイスをしています。