2025/09/18
全6回の連載も、いよいよ最終回です。
これまで「共有経験」「抽象度」「説明コスト」「連想事故」と、比喩が滑る原因を掘り下げてきました。最終回では、理屈で終わらせず、現場で使える「運用」に落とし込みます。
比喩を置く場所で効果が変わる
比喩を入れるなら、どこに置くと効くのでしょうか。
冒頭──掴みとして使います。聞き手の注意を引けます。ただし、冒頭で滑ると、その後の印象が悪くなります。リスクも高い場所です。
主題提示──伝えたいメッセージを印象づけるために使います。最も効果的ですが、最も難易度が高い場所でもあります。
転換──話題が変わるタイミングで使います。場面転換の合図になります。
結び──記憶に残すために使います。最後に印象を残せます。ただし、蛇足になりやすいので注意が必要です。
どこに置くかによって、比喩の役割と求められる精度が変わります。
Go / No-Go 判断フロー
比喩を投入するかどうかを判断するフローを持ちましょう。以下の4つを順番にチェックしてください。
チェック1:共有経験OK?
聴衆の大半が経験を共有しているか。内輪ネタになっていないか。
チェック2:抽象度OK?
像が結べるか。対応点が絞れているか。
チェック3:説明コストOK?
3秒で意味が取れるか。前提説明が不要か。
チェック4:連想事故OK?
意図しない連想を呼ばないか。傷つく人がいないか。
1つでも不安なら「比喩を捨てる」判断も正解です。比喩なしでも祝辞は成立します。無理に入れることで事故るより、入れないで安全に終わる方がいいのです。
比喩の「控え」を用意する
本番で比喩がうまくいかないことがあります。噛んだ、飛んだ、反応が悪かった。そのときに備えて「控え」を用意しておきましょう。
設計原則は1つ。比喩部分をスキップしても、祝辞として成立する構造にしておくこと。
比喩がなくても意味が通じるように、比喩の前後で同じ内容を別の言い方で言っておきます。比喩はあくまで補強材であり、比喩がなくても建物は建つようにしておくのです。
「比喩が決まれば加点、滑っても減点なし」──この状態が理想です。
最終チェック:音・時間・所作とセットで
比喩の校閲は、文字だけで完結しません。
音で確認──声に出して読みます。つっかえる箇所、言いにくい箇所がないか。聞き手にとって聞き取りやすいかを確認します。
時間で確認──比喩を含む部分の所要時間を測ります。長すぎないか。全体のバランスを崩していないかを見ます。
所作で確認──その比喩を言うとき、どんな表情、どんな間で言うか。比喩の効果は話し方にも依存します。
これらを本番に近い環境で確認してください。机上の校閲だけでは不十分です。
まとめ:比喩は「勝負手」ではなく「補強材」
全6回を通じて伝えたかったことは1つです。
比喩は「勝負手」ではありません。祝辞の成否を比喩で決めようとしないでください。比喩は「補強材」であり、事故を起こさない範囲で効果を出すものです。
共有経験を確認し、抽象度を調整し、説明コストを下げ、連想事故を防ぐ。ここまでやっても、比喩が滑るリスクはゼロにはなりません。
だからこそ「比喩を入れない」という判断も、立派な選択肢なのです。比喩なしで心を込めて語る祝辞は、比喩だらけで滑る祝辞より遥かにいい。
この連載が、比喩と適切な距離を取るための参考になれば幸いです。
総合チェックリスト
最後に、比喩を入れる前に確認する項目をまとめます。
【共有経験】
- 聴衆の大半がその経験を持っているか
- 知らない人が恥をかく構造になっていないか
- 当事者にとって痛い可能性はないか
【抽象度】
- 対応点は1〜2個に絞れているか
- 聞き手の頭に像が浮かぶか
- 比喩から本題にすぐ戻れるか
【説明コスト】
- 3秒以内に意味が取れるか
- 前提説明なしで成立するか
- 一文が長すぎないか
【連想事故】
- 意図しない連想を呼ばないか
- 特定の属性を材料にしていないか
- 時事的に敏感でないか
どれか1つでも引っかかったのなら、その比喩は再考または削除を検討してください。
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