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ズレを増幅する「連想事故」と「価値観地雷」

time 2025/12/30

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共有経験もOK、抽象度もOK、説明コストもOK。それでも比喩が「滑る」ことがあります。

第5回では、3つのズレが整っていても事故る領域──「連想事故」と「価値観地雷」を扱います。ここはマニアックですが、知っておくと事故を防げます。

比喩は「意味」より「連想」が先に走る

比喩を聞いたとき、聞き手はまず「連想」します。意味を論理的に処理する前に、感情や記憶が反応するのです。

たとえば「戦い」という言葉。話し手は「困難に立ち向かう」という意味で使っているかもしれません。しかし聞き手の中には「戦争」「暴力」「敗北」といったネガティブなイメージが先に浮かぶ人がいます。

この「意図しない連想」が走ったとき、比喩は事故を起こします。話し手の意図とは無関係に、聞き手が傷ついたり、不快になったりします。

連想事故が起きやすい領域

連想事故が起きやすい領域は、ある程度パターン化できます。

勝ち負け・能力差を強調しやすい領域──スポーツ、競争、試験。「レースに勝つ」「頂点を目指す」。競争に敗れた人、参加できなかった人にとっては痛い表現です。

暴力・災厄・病・災害を想起しやすい領域──「戦う」「嵐を乗り越える」「病に打ち勝つ」。聴衆の中に当事者がいる可能性を考慮してください。

宗教・政治・社会分断に触れやすい領域──特定の宗教行事、政治的立場を想起させる表現。聞き手の信条と衝突する可能性があります。

「誰かを材料にした比喩」になっていないか

特に危険なのは、特定の属性や境遇を比喩の材料にすることです。

「目の見えない人が光を求めるように」──目の見えない当事者にとって、自分の状態が他者の比喩の材料にされることは不快かもしれません。

「発展途上国のように」「障害を乗り越えて」──その属性を持つ人が、比喩の中で「劣った状態」や「克服すべき対象」として描かれます。

比喩は抽象的に見えて、具体的な誰かを傷つけることがあります。「誰かの境遇を、自分のメッセージのために利用していないか」を問う必要があります。

安全基準を設ける

連想事故を防ぐための安全基準を設けましょう。以下の3点で危険度を判定します。

観点 確認すること
当事者性 その比喩に関わる当事者が聴衆にいる可能性はあるか。病気、家庭環境、経済状況、障害、宗教。「いるかもしれない」と想定して設計する。
時事性 最近の事件や災害を想起させないか。地震、事故、犯罪。時事ネタは鮮度が高いが、傷が生々しい人もいる。
象徴性 その言葉が特定の文脈で象徴的な意味を持っていないか。政治的スローガン、宗教的用語、歴史的文脈。

1つでも引っかかれば、その比喩は再考してください。

第三者レビューのすすめ

自分では見えない地雷を拾うために、第三者に原稿を見せることをお勧めします。その際、以下の問いを渡してください。

  • 不快に感じる人がいそうな表現はないか?
  • 特定の人を排除しているように聞こえる箇所はないか?
  • 時事的に敏感な話題に触れていないか?
  • 言葉の選び方に偏りを感じないか?

複数の目で見ることで、話し手の盲点が見えてきます。自分が当たり前だと思っている前提が、実は偏っていることに気づけます。

この回のまとめ

共有経験、抽象度、説明コスト。この3つが整っていても、連想事故で台無しになることがあります。

比喩は便利な道具ですが、意図しない方向に走るリスクがあります。特に祝辞のような公の場では、聞き手の多様性を前提に設計する必要があります。

「傷つく人がいるかもしれない」という想像力が、事故を防ぎます。

あっ、これも比喩ですね。

次回は最終回。比喩を「投入するかどうか」の判断と校閲プロセスを扱います。

最終回「比喩の「校閲プロセス」──投入していい比喩だけ残す」へ

   

この記事の著者

ニーバーオフィス

2006年以来、長きにわたり祝辞・挨拶原稿の代筆を行っている会社の代表者です。このサイトではPTA会長の祝辞・挨拶について、多くのPTA会長のご助力をしてきた経験からアドバイスをしています。